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Channel: りんごの木の下で
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君と、この奇跡の聖夜を 11 最終話

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《ご注意》第一話の注意事項をご確認の上、ご了承いただける方のみ、閲覧してください。




11


教会をでて、あたしとシャルルは、駅へと続く坂道を歩いていた。
ふたりとも黙ったまま。白い息だけがあたしたちを包む。
隣を歩くシャルルを見上げると、まっすぐ前を向いている。
あたしはそっと彼の左腕に手をかけた。

「ねぇシャルル。今夜が満月って知ってる?」

シャルルは頷いた。

「三十八年ぶりってことも?」
「もちろん」
「じゃあ、次は何年後なのかも知ってる?」
「十九年後だ」

あたしは頭の中で計算する。

「あんた、おじさんになっちゃってるわよ」
「君は年をとらないつもりか。女性の方が劣化は早い。自分の心配をした方がいいと思うけどね」
「あら。あたしは童顔って言われるのよ。童顔の人は年をとらないっていうじゃない?」
「まるで科学的根拠のない話だな」
「いいのっ!! ほら見て、きれいよ」

あたしは歩道の端っこで足を止めて、空いていた方の手で坂の上を指した。輝く月がぽっかり浮かんでいる。

「月まで連れてってくれるんでしょ?」

シャルルが意外そうにチラッとあたしを見た。

「……へぇ。覚えてたんだ」
「もちろんよ。さぁ連れてってよ!」
「いいよ。ただし、水深十メートルでの訓練一ヶ月間。プラス食事制限」

あたしはげっと顔を背けた。シャルルがくくっと笑う声がした。
あたしたちは二人でそのまましばらく空を見ていた。
でも、月に負けないぐらい綺麗なシャルルの横顔が目の端にちらちらと映るにつれ、あたしはあることをどうしても聞きたくなって、ついに我慢ができなくなった。

「シャルル……ひとつだけ聞いてもいい……?」
「なに?」
「あたしがマリヤみたいに神様によって妊娠しましたって言ったら、あんた、あたしを信じる?」

シャルルは月を見たまま少しの間黙ってから、きっぱりと答えた。

「信じない」

やっぱり。
ということは、浮気したって思うんだ。
あたしだって、ピンクさんと婚約するんだって思っちゃったし。
基本的にあたしたちってお互いを信じない同志なんだ……。
どうしてなのかしら?
これって「好き」って言えるのかな。
あたしがシュンとして考え込んでいると、シャルルが言った。

「神様にあげるほど、オレは敬虔じゃないよ」

へ?

「君のはじめてはオレがもらうから」

はじめてって……。
あたしは頭がドッカンと噴火したかと思った。
シャ、シャルルのすけべっ!!

「それがクリスマスイブの正しいすごし方なんだろう? ねぇマリナちゃん?」

ニヤッと笑われて、あたしはプイと向こうを向いた。

「知らないっ! シャルルのバカっ!」

途端、シャルルはお腹を抱えて大爆笑をはじめた。
完全に遊ばれていることがわかりすぎて、はずかしいやら、悔しいやら。
涙まで出ちゃう。
そうよ、期待しちゃってたわよ。
だって、クリスマスイブだもの、仕方ないでしょっ!?
そう考えたとき、ふと頭の中で声が聞こえた。
……本当にそう?
それだけ?

「君といると退屈しないな」

大きな手があたしの頭にポンとのって、シャルルが顔をのぞいてくる。

「さぁ帰ろう。あんまり遅くなると、サンタクロースがへそをまげるぞ。お子様のマリナちゃん、ケーキでも買って帰ろうか?」

顔を上げたあたしはゾクリとした。
あたしは―――。
身体を駆け抜けるように、切ない思いがこみあげる。
そこにある唇にキスしたい。
シャルルにもっと触れたいって。
なにも知らないシャルルは微笑みを残して、あたしから離れていこうとした。
そのとき、あたしにはハッキリとわかった。

「……あたし、もう子どもじゃないわ」
「え?」
「やっとわかったの。クリスマスイブなんて関係ないわ。本当はずっとあんたにそう言いたかったの。だって、あたし、本当はあんたと、その……」

シャルルの目がみるみる見開いて、あたしは自分が真っ赤になるのがわかった。
ダメだ、この先はとてもじゃないけど言えないわっ。
―――それなら!
あたしは言葉の代わりに、シャルルの頭を引き寄せて、彼の瞼の下にチュッと唇を押し当てた。
その瞬間だった。

「……このバカ…っ、せっかく我慢してたのに…っ!」

シャルルのつぶやきが聞こえて、直後、あたしは後頭部を両手で押さえこまれて、深く口付けられていた。
瞼の下じゃなく、唇に。
シャルルは狂ったように何度も何度もキスをした。
あたしはなにも考えられなくなった。
信じられなくて苦しかったことも、さみしかったことも、嫉妬も切なさも、布団につっぷしてかみしめた涙の味も、ありがとうもごめんねも、なにもかも全部。
すべてが溶けるように消えていって、あとにはただシャルルを恋しく思う気持ちだけが残った。
好き。
シャルルが大好き。
この世の誰よりも、愛してる……っ。
と思った途端、いきなりガバッと横抱きにかかえ上げられたのっ!

「行こう!」
「ど、どこに? まさか月?」
「月じゃ遠すぎる。君を一秒でも早く抱ける場所さ!」

シャルルは満面の笑顔で叫ぶようにそういうと、月に向かって坂道を走りだした。









(完)

ありがとうございました。
クリスマス、過ぎちゃいました~ごめんなさいっ(涙)
いつか、この続き(!)を私の全妄想力で書けたら・・なんて☆

年内、あと一回ぐらい更新予定デス。

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