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Channel: りんごの木の下で
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悲しみも愛の言葉に 12

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今年のシャルルBD創作は、気ままに軽い物語をやります。
CPはシャルマリ。登場予定キャラ:シャルル、マリナ、美馬、花純、薫、和矢、美女丸。
2次創作にご理解のある方のみ、この先お進みください。苦情等はお受けできません。



12



「どうして怒っているのか、きちんと説明してくれるまで出て行かないわ。ええ、柱に噛り付いてもね」
  と、マリナは涙を手の甲で乱暴にぬぐいながら言った。シャルルはプイと顔を背けた。子どものようにではなく、ビジネスマンが嫌な相手から眼を外すそれに近い。
「言いたくない」
「卑怯よ」
「言いたくないって言ってるだろ」
  だんだん苛立ちを見せてくる口調。それなのに声だけはマリナがずっと聞きたいと思っていたシャルルの声そのものでーー
   マリナは泣きたくなるのを必死で堪えて懇願した。
「何でもいいから言って。このまま帰れない。三年間ずっと待っていたのよ。あたしはあんたが好きなの。大好きなの」
  けれどシャルルは動かず、こちらを向いてもくれず、たまりかねたように美馬がシャルルの顔の前まで行き、跪いた。
「一体何があったんだ? 二人のことに口を出す気はないがーーこれではあまりにマリナちゃんが可哀想だ。シャルル、君の思っていることに正当性があるのならきちんと説明すればいい」
「言う気はないと言っただろう」
「シャルル!」
「聞かない方がマリナのためだ。聞けば彼女は、きっと聞いたことを後悔する」
  一瞬の沈黙ののち、マリナは胸を叩いて叫んだ。
「のっ、望むところよ! 聞かせてもらおうじゃないの! 大丈夫よ、あたしは頑丈だから、わっはっは」
  途端に、青灰色の鋭い目がマリナを矢のように射すくめる。
「二言はないぜ?」
  いつもより深く低い声。念押しするような、脅すような……。底まで透き通るブルーグレーの瞳の中に、マリナは自分が映っているのを見た。張り詰めた緊張。握りしめた手には汗。
「事実から目を背ける主義はないわ」
  マリナが唾を飲んではっきりと宣言すると、シャルルはマリナに着席を指示した。
退室すると言った美馬にも同席を求め、それからシャルルは内線電話でメイドにお茶の差し替えを命じた。
  テーブルを挟んで、三人がけのソファにシャルルがひとりでゆたりと座り、向かい合わせに二つ据えられた一人がけソファに美馬とマリナが着いている形である。

  メイドがお茶を持って来るまでの時間ーー五分ほどだがーー誰もが口を開かなかった。シャルルは腕組みをし、目を伏せ、美馬は端然と座っているのみで、マリナはやたらおおきく響く時計の音にビクビクしていた。

  メイドが去った後、マスカットティーの香りが充満する中でシャルルは言った。
「オレは一度君のアパートを訪ねたことがある。当主に無事に戻ることができたから、その報告をしようと思って」
  マリナは驚いた。それはあまりにもひどい驚きようだったので、「ウヒ」と変な声を発してしまったほどであった。マリナは手で首を撫でイガイガする喉を整えてから、
「それ、いつのこと⁉」
と、聞いた。
「二年半ほど前のことだったと思う」
   成田で別れた半年後!
「どうしてあたしに声をかけてくれなかったの‼ あっ、もしかしてあたしが留守だったの⁉」
   漫画家は“ほぼ”在宅の仕事だ。だがマリナのような三流は仕事をもらうため出版社にかよいつめることも少なくない。編集者に振り回されて時には五、六時間待たされる事もザラである。
「いや、君はいたよ。出入りしてるのを見た」
  マリナの表情が瞬く間に曇る。
「なら……どうして訪ねてくれなかったの?」
「それを聞くのか」
  シャルルは反り返った睫毛をゆっくりと伏せて行き、それを瞳の途中で止めた。起き上がる途中のフランス人形のような無機質で冷たい目。シャルルの激しい憎悪が伝わり、足が震えた。つま先が丸くなる。
「君は和矢と一緒に買い物袋を抱えながら楽しげに帰ってきて、二人でアパートに入っていったぜ。あれで交際していないといい張るつもりなら、マリナちゃん、君の男女関係は随分守備範囲が広いんだね」
  マリナは驚愕のあまり何もいうことができなかった。
  和矢とあたしがなんですって……? 和矢ってシャルルの唯一無二親友で優しくて頼り甲斐のあるあの和矢よね? その彼とあたしが交際してるですって⁉
  つまり、シャルルは、自分がいない間にマリナがまた心変わりして和矢とよりを戻したとそう言いたいのだ。
  マリナはカッとして立ち上がり、シャルルの前まで行くと、そのほおをパチンと音が鳴るほどひっぱたいた。
「バカ! 何考えてんのよっ! 和矢はあんたが全然連絡も取れないし帰ってこないから、あたしを心配して様子を見に来てくれていただけよ! 薫だってしょっちゅう来るし、松井さんですら差し入れ持ってきてくれたこともあるんだから。それなのにたまたま和矢を見たことがあるからって、勝手に誤解して怒って二年半も連絡してこないなんて、最低よ‼」
  いつのまにかそばに来ていた美馬の手が、泣きじゃくるマリナの肩に優しく乗った。
「シャルル、どうしたんだ。これはちょっとひどいだろう?」
  殴られてほんの少しだけ赤くなった天使のほおの方の口角を舌で舐めながら、
「女は受け入れる側だからさ」
と、シャルルはたため息をついた。
「入ったり出たり。部屋もセックスも同じさ。オレのことを好きだといい、帰りを待つとまで約束しながら、部屋にやすやすと別の男を招き入れる。マリナのそういうだらしなさがオレは嫌いだ。虫唾が走る」
  マリナは涙まみれになったメガネを一度外し、自分の服の裾で拭いてから、かけ直して、シャルルの青白い顔を見た。怒っているようには見えない薄ら笑い。腺病質な雰囲気と相まって、その横顔はゾッとするほどだった。ああ、あたしが恋をしたのはこの人だったかしらーー?
「マリナちゃん、帰ろう」
  と、美馬がマリナの手を掴んで部屋を連れ出そうとした。シャルルは動こうともしなかった。
「やっ……美馬さん、あたし、まだシャルルと話したいことがあるの!」
  部屋から出たところでマリナが怯えた目を向けると、彼はすばやくマリナの耳元で囁いた。
「大丈夫。ここはオレに任せて。君はホテルに戻ってて。オレがシャルルと話すよ。たぶん彼は当主奪還の際に辛い事がいっぱいあって、疑り深くなってるんだ。一緒にフェンシングしたりテニスしたりして、彼をリラックスさせながら、君の部屋には和矢くんだけじゃなく薫さんもいたってきちんと証言するよ。ーーそうだな。二日。二日ほど、のんびりパリを観光してて、はい、これ」
美馬がジャケットの札入れから取り出したのは、アメックスゴールドカードだった。



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突然のヤフブロ終了通知。いつか来ると思ってましたがツライです。
寂しくならないよう、これからも続けられるよう、12話書きました。荒い仕上げですみません。これからどうするか、まだ未定です。ヤフブロが好きだったから。ここで出会った皆様とのコメントも全部消えちゃう。移転してまで続けられるかどうか、よく考えます。

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