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Channel: りんごの木の下で
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愛に濡れた黙示録 1

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《ご注意》
1、辺境の一ファンの妄想です。ご了承ください。
2、99999HITリクエスト創作です。「愛は甘美なパラドクス」後の設定です。
3、登場予定キャラ:マリナ、和矢、美女丸、薫、巽、シャルル、カーク、ジル。なお、詳細な内容、及び、最終CP等は、事前に明記いたしませんので、どのようなキャラのどのような設定でも、お付き合いいただける方のみ、閲覧をお願いいたします。読了後の責任は負えませんので、よろしくお願いします。
4、登場する名称は、すべて架空につき、実在のものとは無関係です。






聖書に黙示録の書があるように、だれの生涯にも黙示録がある。
アンは嵐と暗黒の中で身も世もなく、寝もやらずすごしたその苦悩の夜、彼女の黙示録を読んだ。アンはギルバートを愛していた―――今までずっと愛してきたのだ!
それが今、わかった。

引用元:モンゴメリ著/村岡花子訳 『アンの愛情』新潮文庫 P446










愛に濡れた黙示録







「こんにちは。どうぞこちらにご記帳ください」

山梨県甲府市にある甲府ロイヤルホテル鳳凰の間は、にわかに活気づいていた。そのすぐ前にあるロビーで、池田マリナはただひとり、白布に覆われた受付テーブルの後ろに立ち、にこりと笑顔を浮かべながら、右手の指を揃えて丁寧に芳名簿を指した。

「本日はおめでとうございます」
「ご丁寧にありがとうございます。どうぞ、中へ」

大広間の中へ消えて行く背中を見送る間もなく、次の客が来る。

「本日はおめでとうございます」
「ありがとうございます」

中年の紳士が祝儀袋を出した。
もう、これで何度目のありがとうだろう。もしかしたら、人生で一番ありがとうを言う日になるかもしれない。マリナはそう思いながら、頭を低くして祝儀袋を受け取った。客はマリナを通り過ぎて、広間のざわめきに吸い込まれていった。
それにしてもすごい招待客の数だ。
まだ開始一時間前だと言うのに、もう、百人は受け付けた。この分なら、始まる頃には三百人はいくだろう。まぁ、世が世なら殿様の弾上家なら、当然だろうけど。
今日は、弾上家三十代当主 弾上藤一郎宗景静香の結婚式だ。
今や甲府のみならず、あちこちで確固たる地位を築いた彼も、マリナにとっては、短気でせっかちで怒りっぽい―――愛すべき幼なじみの『美女丸』だ。
二ヶ月前、美女丸から結婚するという連絡を聞いたときは、びっくりした。けれど、受付をしてくれと言われたときの方がもっと驚いた。
どうしてあたし?
格式高いあんたの式に、あたしなんかふさわしくないでしょ?
というよりも、招待客としてごちそうを食べたいわっ!
そう言うと、彼は、
「おもしろくなりそうだから」
とだけ答えた。そんな無茶な、と断ると、美女丸は「相棒をつけるから」と説得した。その相棒は、腰の曲がったおばあさんをトイレに案内している。

「弾上静香さんの結婚式の受付はこちらかね?」
「はいっ! こんにちは!」

紋付羽織の老人が杖をついて立っている。
慌ててマリナは祝儀袋を受け取った。祝儀袋を控えの箱の中にしまおうとすると、すでにいっぱいだった。
さすがね。
素直にそう思った。
これ……全部でいくらあるのかしら。
頭の中にボンと浮かんだ煩悩を、慌てて打ち消した。
それにしても祝儀袋もさまざまだ。花をちらしたかわいらしいいまどきの祝儀袋もちらほらあるが、鶴や扇をあしらった古典的なものがほとんどだ。そういうものは目立ち、しかも、中身はともかく、袋自体がものすごくかさばる。
しかも、そういう仰々しい袋をもってくる客にかぎって、態度が大きい。
こちらがこんにちはと言っても、ろくに返事をしないし、ちゃんと備え付けの筆ペンが置いてあるのに、わざわざ懐から自分の万年筆を取り出す。列ができるぐらい後ろが混んでいるのだから、さっさと書けばいいのに、キャップの白い星をちらつかせるところなど、真の大物ではないなと、思ってしまう。
こういう連中とつきあわなくちゃいけないなんて、美女丸も大変だ。
心から同情していると、息を切らせて相棒が帰ってきた。

「一人にして、ごめんっ!」
「ううん。おばあさんは?」
「大丈夫。ちゃんと席まで案内してきたよ」

和矢はタイをキュッと直した。
それから二人は受付に専念した。一時間後、披露宴が始まる頃には、受付はようやく静かになっていた。
大広間の中から、華やかな音がした。
白い受付テーブルにポツンと立つ二人は、中でスポットライトを浴びるふたりとは別の意味で特別に切り取られて、和矢が照れたように声をあげた。

「はじまったな、あいつら、幸せになるといいな」
「うんっ!」

マリナは大きく頷いた。
本当に、しあわせになってほしい。
美女丸は幼いころ母親を病気でなくしたばかりか、父親も妹もいとこもなくした。一気に家族をうしなった彼が、ただ誇りを背中にかかげて、弾上家当主として気高く立っていた当時を思い出しながら、マリナは思った。
かわいいかわいい、純情そうなお嫁さん。
でも、実は彼にずっとずっと恋をしてきたという情熱家さんだと聞いて、ひやかしたとき、真っ赤になった美女丸に、これからのふたりの未来がみえた。
それは愛にあふれる輝く将来。
どうか―――ううん。
あのふたりはしあわせになるわ、絶対に。
感極まって、涙が出そうになって鼻をすすりながら横を向いた。和矢がそんなマリナの肩に手をのせた、そのときだった。
受付の目の前のエレベーターがさっと開いた。

「え…っ!?」
「よお、マリナちゃん」

マリナは驚いた。







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