《ご注意》シャルマリ・銀バラ二次創作です。かつ本作品はフィクションです。楽しく読んでください。
病院に到着すると、和矢から連絡が入っていたのか、イツキが玄関口で立っていた。
「ようこそ。待っていたよ」
とても優しい笑顔であたしを迎えてくれた。
シャルルを刺してしまったあたしを責める様子なんてこれっぽっちも見えない。
ああ、みんな、なんていい人なんだろう。
ありがたすぎて、涙がでちゃう……
「シャルルはどう?」
イツキは、顔を曇らせた。
「よくないね。手当は早かったし、手術自体もうまくいったんだよ。あっ、手術はシャルルがしたんだ」
シャルルが?
「病院に運ばれてすぐに覚醒してさ。『俺がやる』だよ。腹部にキシロカインを大量に注入して、鏡を三枚に手鏡を他の医師に持たせながら、自分の傷を縫ったんだ。出て来た医師たちが、みんなアンビリーバボーって顔をしながら、
『あの人はどなたですか』
――とつぶやいていたよ。
手術は成功したんだけど、その直後にバタン。再び意識がなくなってさ。手術自体は問題なかったみたいだけど、どうやら刺された時からの出血量が多すぎて、ショック状態を起こしたらしいんだ。もちろん十分な輸血はしたけれど、どうしてか意識がもどらない。なんせどでかい剣でグサッとやられたわけだから仕方がないけど」
ドキっ!
「あっ、ごめん。君を責めているわけじゃないんだ」
わーんっ、いいのよ。
あたしが悪いの!!
「とにかく、傷のある腹腔内に血腫ができて、それが脳に飛んでいって脳の一部を遮断してしまったんじゃないかと医師はいうんだけど、CTやMRIでは異常はない。つまりお手上げ状態なんだってさ。くそっ、みんなヤブ医者だよ」
ということは、シャルルはまだ危険な状態なのね……。
「でも、君の声を聞いたら、目がさめるよ。さあ、シャルルのところに行こう」
うっうっう。
ありがとうね、人殺し未遂のあたしに情けをかけてくれて。
まるでイエス様じゃないかと思うほど心の広いイツキに伴われて、あたしはシャルルの元へ向かった。
「マスクとキャップをつけてね。滅菌室だから」
と、どでかい外国人サイズのマスクと不織布キャップを渡される。
それらを装着して、イツキがボタンで応答し、ステンレス扉がザーッと開けられるのを見ていると、あたしはいよいよ事態の重さを感じて、ますます気が重くなってきた。
自分がやってしまった罪の重さが身に迫るっ。
ああ、どうか、奇跡が起こって、
『おはよう』
と、シャルルが起きていてほしいっ。
と必死なあたしの祈りもむなしく、ベッドがずらりと並ぶ集中治療室の、一番端のベッドで、シャルルは誰よりも白い顔をして、酸素マスクを装着して眠っていた。
周りには、ぴこぴこ音を立てる機械がいっぱい。
「マリナちゃん、来てくれたんだね」
枕辺に付き添っていた美馬が、あたしを見て席を立った。
大きなマスクに覆われているけれど、その上にある二つの瞳は、黒ダイヤのようにキラキラと光って、あたしが来たのを心から喜んでくれているってわかった。
「さあ、シャルルに話しかけてあげて。きっとシャルルは君が来るのを待って、起きないんだよ。昔からそういうところがあるんだ。パティシエがその日、好きなタルトを作らなかったら、すねて部屋から出てこなかったりした。今も同じだよ」
美馬は、ダンスのお誘いのようにあたしの背中に手をやり、あたしをベッドの枕元まで誘った。
あたしはおずおずと、シャルルに近づく。
シューシューという規則的な酸素マスクの音。
それともともに、あたしのドキドキも最高潮っ!
「シャルル、あたしよ。聞こえる?」
シャルルはもちろん、答えない。
あたしは美馬があけてくれた丸椅子に座った。
「とんでもないことをしてしまってごめんね。正直にいうと、あたし、どうしてあんなことをしたのか、よく覚えていないの。ただあんたと和矢が話しているのを見て、胸が痛くなったの。あたしを捨てないでって思ったわ」
シャルルの顔にはまったく動きはなかった。
まぶたがピクンともしない。
絶望しそうになる気持ちを奮い立たせて、あたしは続けた。
「あたしね、夢を見たのよ。父さんがあと半年だって大騒ぎするの。あたしはてっきり病気で余命半年だと思って、慌てて駆けつけたの。恋人としてあんたを両親に紹介したわ。そうしたら、あと半年っていうのは、ハゲのカウントダウンのことだったのよ。ひどいと思わない? しかも父さんは、あんたが天才だと聞いて、ハゲ薬を作ってくれと頼むし、あんたはあんたで、ハゲ薬の代わりにあたしをくれって父さんに申し込むの。とんでもない夢だったわ。でもとても幸せな夢だった。父さんも母さんもいつも冷静な姉さんも大笑いしていて、もちろんあんたも笑ってた……」
言いながら、焼けたように熱い鼻をすすった。
ここで泣いてはいけないと、あたしの中のあたしが言っていたの。
「小菅の拘置所で、別れようといったあんたを、引き止めないで本当にごめんなさい。今更だと思うけれど、あたしはシャルルが好きよ。華麗の館で言った気持ちから何も変わっていないわ。ううん、もっと気持ちは強くなっている。た、たとえあんたが、い、嫌だといっても……もう離れないわ。マルグリットでも月でも、ガブってあんたに食いついていくから、覚悟してよ、ねっ」
最後は、泣きながら話すあたしに、美馬とイツキがいった。
「おい、シャルル。マリナちゃんにここまで言わせて、まだ寝ているつもりか?」
「そうだよ。起きなよ。そうしたら、ハッピーな毎日が待っているぜ。人生最大のハッピーだ」
うん、うん!
あたしはシャルルを幸せにしたい!
そして、あたしもシャルルと幸せになりたい!
心からそう思っている!!
あたしが喘ぎながらそう言ったその時だった。
後ろからよく響くテノールボイスが。
「ありがとう。もう、これ以上ないくらいハッピーだよ」
ええっ!?
びっくりして振り返ると、白衣姿の背の高い男が、白いキャップとマスクを外すところだったの。
とたん、流れるような白金髪と、息をのむほどの美しい顔が現れて、あたしは息が止まった。
……シャルル!
「あれっ!? シャルル、どうして!?」
イツキが、ベッドに横たわるシャルルと、目の前に現れたシャルルを見比べて目を剥いた。
美馬も目を丸くして、
「驚いたな……」
とつぶやいたっきり、細い手で口を覆い絶句した。
シャルルはフッと不敵に笑うと、右手の指先でこめかみにかかる髪を払いながらあたしたちのそばまでやってきて、いった。
「そこに寝ているのは、俺の弟だ」
ええっ!!
「弟なんていたのかい!?」
イツキの問いに、シャルルは「まあね」と答えて、肩をすくめた。
「事情があって生後間もなく別々に育てられたんだ。名はミシェルといい、俺を当主の座から追いおとすために和矢を殺そうとした大悪人さ。それが失敗して、アルディの掟により地中海の孤島に隔離されていた。一生会いたくないと思っていたんだが、脳を撃たれてから気が変わってね。アルディのためだとルパートに命じて、地中海のミシェルと、電話回線を使ったシークレットラインを開通させて、三人で話し合いの時を持ったんだ。そこで、ミシェルはプラハに待機しておくこと。俺に万が一のことがあった場合、即刻ミシェルが当主の座に立つことを決めた」
ということは、つまり……。
「俺は自分の手術後、密かにルパートに命じて、ホテルにいたミシェルを襲い、睡眠薬で昏睡させて、この病院に運び込ませた。美馬たちの目を盗んで入れ替わるのは苦労したが。ちなみに睡眠薬は健康に配慮した量だから問題ない。きっと今ごろ、アルディ当主になった華々しい夢でもみているだろうさ」
美馬がため息をついた。
「じゃあ、俺たちがそばにいたのは、その、ミシェルという弟だったのか?」
イツキも脱力した様子で、その場に屈み込む。
「しかも眠っているだけだっていうの?」
シャルルは、ちょっと笑った。
「陰から君たちの真摯な看護は見せてもらったよ。友情に感謝する」
イツキはそこが病室の床であることもかまわずに、ぺたんと座り込んでしまった。
「ひっでぇ……鬼畜」
美馬も呆れた顔で、おでこを手で押さえながら首を振り、艶やかな黒髪を揺らす。
「今度やったら、友達やめるよ」
シャルルはさすがにバツが悪そうな表情で、二人をみた。
「すまなかった。どうしてもマリナの本当の気持ちを知りたかったんだ。そのためには、こうするしかないと思った。俺が目覚めていては、マリナはまた自分を偽る」
「レオンハルトが魔払いはすませたといっていたけど」
「俺は魔など信じない。マリナが俺を殺そうとしたのは、王立劇場での凄惨な戦いを目撃したことによる一過性の精神破壊だ。特別な治療をせずとも、休息と時間さえ十分にとれば、すぐに本来の自分を取り戻せる」
きっぱりとシャルルは言い、目を挙げて、あたしに視線を移す。
「マリナ。俺を殺したいのなら、いつでも殺していい。だが、ひとつだけ条件がある。俺を殺すときは、一瞬たりとも俺から目をそらすな。正気で俺を殺すなら、受け入れる」
そういうと、シャルルは、呆然としているあたしの前にやってきて、腰を落とし、右ひざを地面につけて、あたしを見上げる。
「今も俺を殺したいか?」
あたしは夢中で首を横に振った。
「そう。よかった」
シャルルはホッとしたように微笑んで、吐息をつきながらうつむいた。
「君に殺されるのなら、それも本望かなと思ったけれど……やっぱり嫌だ。まだ、死にたくない。俺はまだ生きていたんだ。なぜか、わかる?」
それは、えっと。
「グノームの聖剣のことが、なんとかなりそうだから? レオンハルトにいって、あの剣がユメミの奇跡でみんなの命に変わったことが、証明してもらえるから、とか」
シャルルは苦笑しながら、髪をわずかに揺らして首を振る。
「ノン。ノン」
じゃあ、なんだろう。
本当のところをいうと、あたしは分かっていた。
でもそれを認めると、心が一気に崩折れてしまいそうで、怖かったの。
あたしの心が跡形もなく溶けて空気に混ざって、勝手にシャルルに語りかけていってしまいそうで。
だから、あたしは口から出る言葉を必死で探した。
そうでもしないと、あたしを見る青灰色の瞳の、美しいきらめきに、あたしは魂も何もかも吸い出されてしまいそうだった。
「みんなと友達になれたから! 騎士団の人や、レオンハルトや、ガイや美女丸や、みんなと。やっぱり友達っていいわよねっ」
シャルルは顔をくしゃくしゃにして笑った。
「わかっているくせに、そういう……。まだ魔が入っているのなら、消毒しないとね」
とつぶやくが早いか、シャルルはあたしのマスクをむしり取った。
そして、顎をつきだすようにして、あたしの唇に自分の唇を押し当てたのよっ!
きゃっ、これってもしかして、キス!?
あたしは目の前にあるシャルルの美しい顔のドアップを見て、我に返った。
もしかしなくても、キスよ、どーしましょうっ!?
シャルルは、ちゅっと触れるだけで、すぐに離れた。
息が絡み合うほどの至近距離で、あたしの目を見つめ、あたしのほおを親指で撫でながら、ささやいたの。
「俺と結婚してください」
心臓が止まるかと思った。
シャルルは泣きそうな顔で微笑んでいた。
青灰色の瞳が、雨上がりの湖のように豊かに潤んでいる。
とても嬉しい。
言葉にならないぐらい。
でも……。
「後悔しない?」
あたしの言葉に驚いた顔をして、シャルルは一度強く瞬きをした。
「なぜ?」
なぜって……
それをあたしに言わせるの?
あたしは喜びと嫉妬で胸が苦しくなりながら、唇を噛みしめていった。
「あんたは、クリームヒルトとプラハ城でキッ、キスを交わしていたじゃないの。しかとこの目で見たわ。クリームヒルトはカレルが好きなようだけだけど、あんたは彼女のことが好きかもしれないじゃない。もしそうなら、あたしにキスなんかしないで」
たちまちシャルルはムッとしたように、その目を光らせた。
「えらく根性の曲がった魔だな。いや、元からの性格がねじ曲がっているのか?」
むっ。
ひどい言い方。
やっぱりシャルルはあたしのことなんて嫌いなのね。
あたしは振られたんだわ。
よ~~くわかったわ。
あんたを刺しちゃったことについては、謝った。
だからもういいわよね。
あたし、日本に帰る、バイバイ!
叫んでシャルルの手を振り払おうとすると、シャルルの右手があたしのほっぺをぐいっと掴んで、強引に自分の方へ向けた。
いっ、痛い、なにすんのっ!
「俺は、グノームの聖剣が欲しくて、クリームヒルトと婚約しただけだ。レオンハルトがプラハ城に聖剣を封印してしまっていただろう? プラハ城の持ち主はクリームヒルトのグラナート家だ。プラハ城の譲渡を申し出ると、婚約するならと言われたから、その条件を飲んだ。クリームヒルトはカレルが好きで、だが相手にされず、気を紛らわせる相手を欲していたんだ。つまり、俺たちは利害が一致しただけの関係だ。プラハ城で君の前でキスしたのは、半分あてつけだ。突然目の前に現れた君が、どう反応するか、確かめたかった」
そんなっ。
「でも、君は無反応だった。正直、がっくりしたんだぜ」
それは、たぶん、魔のせいよ。
あたしが言うと、シャルルは首を振った。
「魔など信じないと言っただろう。わかってるさ。あてつけなどという、子供じみたことで君の心を確かめようとした俺が愚かだったんだ。臆病で、傷つくのが怖くて、いつも君から逃げてばかりの俺がすべての元凶なんだ。君に刺された傷が、その痛みが、目を覚ましてくれた。
マリナ、愛してる。こんなに愛せる女は君以外にいない。本気のキスがどういうものか、その体で感じ取って――」
と言いながら、シャルルはもろ手であたしの側頭部を押さえ込み、ぐいと引き寄せて、激しく唇をあたしの唇に押し当てた。
それは噛みつくような口付けで、あたしは息をつく暇もなく彼の情熱に巻き込まれ、翻弄されて、その陶酔の中に沈められたのだった。
気がつくと、あたしはシャルルの服を握りしめて、彼にすがりついていた。
シャルルの深い愛情の中で、長い間、シャルルと離れていた間の悲しみや切なさが端から形を無くして、いっぺんに溶けていくのを感じた。
シャルルは一瞬だけ唇を離してささやいた。
「殺したいほどに、俺は愛されていると思っていいか?」
あたしは夢中でうなずいた。
「だったら結婚してくれるか?」
「本当にシャルルはあたしでいいの? あたしはシャルルを刺しちゃったのよ」
「君しかいらない」
あたしは呼吸するのも苦しくなって、喘ぐようにして答えた。
「こんなあたしでよかったら、結婚してください」
とたん、シャルルは泣きそうな顔で笑った。
「新婚旅行は、月よりももっといい場所にいこう」
彼はそう囁くと、端正なその顔を傾けて、宝物を持つようにあたしの両ほおをもろ手で挟んで、それはそれは優しく、熱く、思いのこもったキスをしたのだった。
あたしは感動で、胸が張り裂けてしまうかと思った。
なんて素敵なキスだろう。
ぐっさりと刺しちまったあたしを許してくれたばかりか、プロポーズまでしてくれるなんて。
……ありがとう。
本当にありがとう、シャルル。
大好きよ。
もう一生離れないっ!!
そうして夢中になってキスをしたら、突然、うしろで聞こえたのは、ゴホンゴホンという咳払い。
「せっかくのところをお邪魔して申し訳ないんだが、ラブシーンの続きは場所を変えた方がいいと思うよ。ここは一応病院だし」
美馬に言われて、あたしはシャルルを思いっきり突き飛ばしちゃったけど、いけなかったかしらね。
だって、周りをよく見たら、看護師さんやお医者さん、付き添いの人たちが白い目であたしたちを見ているんだものっ。
わーんっ、ごめんなさい。
「なんにしろよかったね、シャルル、マリナちゃん。末長く幸せにね」
優しいイツキが慰めてくれなかったら、あたしはいつまでも取り乱していたと思うわよ、ホント!
「それにさ。俺も美馬さんに同感」
は?
「ここもベッドがあるからメイクラブできないこともないけど、最初はやっぱりムーディな方がいいでしょう? 白いベッドに白いシーツ、ピローも白でフリルつきがいいかな」
あたしはイツキを平手でパシーン!
なっ、何を考えているのよ、この変態!!
「おいおい、イツキ。それは失礼だ」
そうよ、失礼よ。
とたん、美馬がバリトンボイスで艶っぽく言った。
「マリナちゃんはどちらかというと可愛いタイプだ。ハンプティダンプティみたいにつるつるのお肌をしているから、シーツは花柄の方がいいと思うよ」
あたしは美馬も平手打ち!
ハンプティダンプティって、要はたまごでしょう!?
思わず、たまごになって、花柄のお布団に寝ている自分を想像して、かなり青ざめてしまった。
イビキに耐えたシャルルの百年の恋も冷めそう……
冷や汗を浮かべてシャルルを見ると、シャルルは体をくの字にねじって大笑いしていた。
その笑い声は集中治療室中にこだまし、白眼視はこれ以上白くなりようがないというぐらいにまっしろになって、あたしはもう死にたいと思った。
ところがシャルルと来たら、目尻の涙を細い指先でぬぐいながら、
「マリナ、俺、笑い死ぬかも」
と言ったのよ!!
えーいっ、勝手に死ね!
と猛烈に怒ったその直後だった。
「俺が死んでもいい? たとえば病気や事故や怪我で、突然俺が死んだら君はどうする?」
びっくりして彼を見ると、シャルルは、笑いを含んだ顔をぴたりとそのまま止めて、あたしを見つめていた。
深い二重まぶたの下にあるブルーグレーの瞳に、愛情があふれんばかりに輝いていて、あたしは思わずドッキン!
死んでいいかと問われると。
答えなんか決まっている。
死んでほしくない。
シャルルが死なないようにどんな努力だってするし、あたしの命をあげて彼が生き返るのなら、そうしてって神様に頼むと思う。
あたしよりもずっとずっと長生きしてほしいもの!!
「もしあんたが死んだらなんて考えたくない。そんなこといわないで。だけど……」
「だけど?」
あたしは、シャルルから目をそらさずにはっきりといった。
「それでも、もし本当にどうしようもないことであんたが死んじゃったら、あんたが天国で安心できるように、あたしは漫画を描いて、ご飯を食べて、元気に生きていくわ」
シャルルは一瞬目を見張ってあたしを凝視していたけれども、すぐに右手でこめかみを抱えて、目を細め、天使のカーブを描いたほおをゆがめて、笑った。
「――まいったな。そんなマリナだから、俺は……」
あきらめたようなその笑顔があんまりにも素敵で、あざやかで、あたしはついに三度目の恋に落ちたのだった。
華麗の館と、飛行機から飛び落りた時。
そして今が一番、シャルルを愛していると思った。
「君が好きだ」
と、シャルルはいった。
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