愛すればこそロマンチック(7)
7 ついに登場、消えた花婿
次の日は、なんと朝起きたら、アルディ家のどこにも、シャルルの姿もエリナの姿も見当たらなかった。
どうして、どこに行っちゃったの?
思い返すと、昨夜は、食堂で優雅にお茶を飲むシャルルに、ルパートの通訳で得たサミュエルとピエールの情報を隅から隅まで一つ残らず一生懸命に話したの。
ピエールがサミュエルをわざと走ってきた車の前に突き飛ばしたんじゃないかという疑惑についてももちろん打ち明けたのだけど、シャルルは鼻で笑うだけだった。
「バカバカしい。そんな噂があったのなら、警察が調べているはずだ。ひき逃げ犯人とピエールが共謀して、という線も当然ながら考えて捜査しただろう。ピエールが自由に国外に出られたのは、結果として彼に嫌疑がなかった証拠だ」
畳み掛けるように言われると、あれだけあやしいと思っていたピエールが潔白のような気がしてくるから不思議。
天才のシャルルがそう言うなら、きっとそうにちがいないって。
これはもう、条件反射の世界、つまりパブロフの犬っ。
あああたしって割と素直だったのね、わぉぉーん。
あたしは、ちょっとそこで思いとどまった。
でもまてよ。
なら、ピエールが犯した罪とはなんだろう。
やっぱり師が死んだのに、結婚しちゃう申し訳なさかしら?
それともひき逃げ後、ピエールが絵を売り飛ばしたのが本当なのかな?
近所からの噂を交えながらそのことをたずねると、シャルルは首を横に振って言った。
「それはちがう。アルディ家を出発する前にサミュエルの活動については大方調べておいたが、彼の絵は、彼の生前にすべて売りに出されている。どうやらサミュエルは作品を完成させては直ちに売るタイプの画家だったようだ」
なるほど。
そういえば、ルーアンに行く車中で、「サミュエルは新作が出るごとに値段がニュースになっていた」とシャルルが言ってたっけ。
ということは、ピエールにはサミュエルの絵を奪う動機は成立せず、従って、ピエールにはサミュエルを殺す理由も、ひき逃げ事故後、逃亡する必要性もない。
じゃあ、あの手紙にあった『重大な罪』って一体なんなの!?
ピエールは一体なにを後悔して、なにを償いたいと思っているの!?
また堂々巡りの難問に戻ったあたしは、シャルルの方からも情報を聞いて考えようと期待していた。
が、シャルルは、
「じゃあ、おやすみ」
とだけ言って、食堂から出て行こうとしたの。
待てっ、人にだけ情報提供させといて、それはないでしょ!
あんたはあれからどこで何をしていたのか、ちゃんと教えなさい!
叫んで彼の腕を掴むと、シャルルは不承不承という風に足を止めて、答えてくれたんだけど、かえってきたその答えは実に恐ろしいものだった。
「ルーアン警察と市営墓地」
警察はわかるけど、お墓ってなに!?
「サミュエルの死亡時の様子を知りたくてね。死体検案書を見に警察に行ったんだが、今ひとつ納得できなくて、サミュエルの墓に行った」
だから、それで、なんでお墓なの!?
お花とお供え物を持ってお墓まいりに行くってキャラでもないでしょうし、死体解剖が趣味のシャルルがお墓に行くとなれば……。
と思ったあたしは、とってもいやぁな予感がして、おそるおそるたずねてみた。
「……まさかよ。いや、これは、万が一の可能性として聞くだけよ? サミュエルは土葬で、あんたはその墓をあばいて、埋められていた死体を掘り起こして、解剖したとか、そんなことはまさかしてないわよねぇ?」
すると、シャルルは驚いたように青灰色の瞳を輝かせて、くすっと嬉しそうに笑った。
「おや、マリナちゃんにしてはするどいね。でも、残念ながら時間が足りなくて解剖まではしていない。掘り出して表面観察と検体採取をしただけだ。警察と神父の立会いで、ちゃんと埋め戻したから問題はない」
うわーーーんっ、やっぱりっ!
猟奇的だわ、怪奇漫画の世界だわ、キョンシーよ、ゾンビよ、エクソシストよ、現代版マッドサイエンティストだわ!
ああ、あの時一緒について行かなくて、本当によかった!!
それで、あたしはサミュエルの家の前で、置いてけぼりにされた恨みをすっかり洗い流して、ひとりで果敢に立ち向かってくれたシャルルの思いやりの深さと勇気の広さと志の高さに両手をあわせて感謝したのだった。
「そ、それで、何かわかったの?」
「ああ。きわめて面白いことがね。まず警察でわかったことだが、サミュエルがひき逃げされる数週間前から、毎晩彼の家に派手な身なりの女性が出入りしていた。ただ、ひき逃げ犯人が自首したため、その女性の身元は特定されていない。警察内では、ピエールの愛人だと結論づけて終わったようだ」
ピエールに、愛人!!
そんな!!
『重大な罪』って、そういうことだったの!?
殺人よりはましだけど、愛人もやだ!!
あまりの衝撃に完全にノックアウトされたあたしに関係なく、シャルルは自分の右手の指先を左手でツンツンとつついた。
「それから遺体の方。こちらからわかったのは、両手の指先。とくに爪の間の皮膚を分析した結果だが」
そこで言葉を止めたシャルルに、あたしは一気に前のめりになった。
な、何かが出たのね、殺人の証拠……テレビでよくある犯人の皮膚片とかっ!?
「何もでなかった。非常に綺麗な指先だったよ」
へ!?
世紀の大発見を期待していたあたしは、唖然、呆然。
するとシャルルは、人差し指を口の前に当ててウインクしながら、大輪のバラのような、見るもあでやかな笑顔を浮かべてあたしのハートをぶち抜いておいてから、その間にさっさと食堂から出て行ってしまったのよ。
わーん、なんなのよ、いったい!?
思わせぶりな言い方はやめてほしい!
あたしはくさくさしながら、メイドさんに案内されたかわいらしいピンクで統一された客室に入って、腹立ち紛れにふかふかのベッドにどーんと飛び込んだ。
そこで、あたしの意識はぶつっと切れた。
いえね、アストラルトリップしたとかじゃないわよ、ただ眠ってしまっただけ。
ルーブルの凍えるようなかびくさい地下でふた晩も過ごし、あげくに朝からずっとピエール探しで歩き回っていて、しかもエリナからは、無神経だの軽率だのとさんざんにののしられ、上品で可憐なあたしとしては身も心もボロボロだったのよぉ!!
それで、起きたら、シャルルもエリナもどこにもいなかったというわけなのよ。
時計を見ると、時刻は正午を少し過ぎたところ。
うーん、ちょっと寝すぎたかしらね。
でも、もともと漫画家というものは、基本的にお日様が出ている時にはあったかいお布団の中にいて、日没とともに生き生きと活動を開始するという、まっとうな社会人とは異なる、どちらかというと泥棒やコウモリに近い生体なのだから、しょうがないと思うわ。
自分のアイデンティティにかけてあたしは割り切ることにして、晴れ晴れとした気分で、食堂でたった一人遅い朝食をいただいていた時、入口の観音式のドアが廊下側からさっと開かれた。
入ってきたのは、漆黒のテーラードジャケットに、深えんじ色のVネックのケーブル編みのニット、下はブラックのスキニーパンツという、いかにもできる男の休日スタイルという感じのシャルルだったのだ。
ああ、美青年は何を着ても様になるっ!
「あらシャルル、いたの? エリナはどこ? 一緒じゃなかったの?」
彼は無言であたしのそばにつかつかと近づいてきて、感情を全く含まない金属のような命令口調で言った。
「エリナは、ルパートに命じて、ピエールの捜索という名目で、ルーアン周辺を適当につれ回させている。その間に、オレたちで、ピエールに会いに行くぞ」
あたしはただただ呆然と彼を見つめて、しばらくの間、口も聞けなかった。
本当にピエールが見つかったのだろうか?
昨日だって、サミュエルの家にいるって言っておいて、いなかったんだし。
天才の言うことなら盲目的に信じるあたしのパブロフの犬精神も、さすがにこの時ばかりは反応が鈍かった。
だって、ねぇ?
「……本当にピエールがいるの? 昨日、サミュエルの家にいるって言ったのは、みごとに間違いだったじゃない」
あたしのその言葉は、シャルルのエベレストよりも高いプライドを思いっきり刺激してしまったらしく、彼は魂の底から心外だとばかりに、自分の胸を何度も親指で指して、思いっきり眉を寄せた。
「オレを誰だと思ってる? オレはシャルル・ドゥ・アルディだ!」
よく知ってるけど……。
「たとえ太陽が西から上ろうとも、このオレに間違いはないんだ。いいか、ピエールは一度はサミュエルの家に寄ったんだ」
確信めいた言葉に、あたしは驚いて、シャルルを食い入るように見つめた。
「それ、本当?」
シャルルはまなざしに強い意志の光をみなぎらせて、うなずいた。
「ああ、間違いない。あの家の周囲には雑草が生えていただろう。それらに人が踏んだあとがあった。草の倒れ方と表面の湿り具合、土へのめり込み度合いからいってごく最近のものだ。
おそらくピエールはフランスに帰国後、すぐにサミュエルの家にやってきたんだ。近隣の住人に見つからないように深夜か早朝になどね」
シャーロックホームズも泣いて逃げ出しそうな推理をとうとうと説明されて、あたしは俄然、興奮してきた。
「草に足跡があるなんて、全然気づかなかったわ」
シャルルが、あたしの言葉を引き取って、フンと息をはいた。
「そうだろうな。君とエリナが、思いっきりその足跡を踏んでいたから」
あら、そうだったかしら。
あははと笑ってごまかしながら、どうしてピエールはサミュエルの家に来て、すぐにいなくなってしまったんだろうかと、あたしはそれがすごく気になった。
だって、エリナの到着を待たずにすぐいっちまったんでしょ?
何をしに、彼はサミュエルの家に来たの?
あたしが、それをたずねると、シャルルは即座に答えた。
「警察に言って、今朝、サミュエルの家を調べさせた。事故当時の資料と照合の結果、彼の家からは最後の作品、つまり描きかけの絵と画材一式が消えていた」
つまり、サミュエルの遺作と遺品をピエールが持ち出したの?
どうしてそんなものを?
「ドーバー海峡に面したヴィッサンという港町に、ピエールとサミュエルが育った養護施設がある。問い合わせた結果、数日前からピエールはそこにいる」
「ヴィッサン? どこ、それ?」
「カレーのとなりだ」
カレーって、ご飯にかけるあのカレー?
聞きながらあたしが首を傾げると、スムーズにすすまない話にイラついたのか、シャルルが噛み付くように言った。
「カレーは、街の名前だ! ドーバー海峡は、イギリスとフランスが海をはさんで最も近く向かい合う海峡だ。このドーバーの下には、海底部の総距離が世界最長のユーロトンネルが通っていて、イギリス側のフォークストンとフランス側のカレーとをつなげている。ヴィッサンは、そのカレーの隣にある小さな町だ!」
あ、そう。
よくわかったわ、ご苦労さん。
でも、なんで養護施設にピエールが行くの?
里帰り?
「さっさとしないと置いていくぞ」
有無をいわせぬ口調で言い置いてシャルルは食堂を出て行き、あたしはあわてて彼の後を追って、昨日と同じロールスロイスでアルディ家を出発したのだった。
広い後部座席に、シャルルとあたしは向いあって座った。
さあ、いよいよピエールとご対面ね!
それにしても、どうしてエリナは一緒じゃないのかしら?
すっごく喜ぶのにな。
あっ、そうか!
ややや、やっぱりピエールの『重大な罪』って愛人問題で、シャルルはエリナの受けるショックを考えてくれて、それであたしたちだけで先にピエールに会いにいくんだ、そうにちがいないっ。
緊張するあたしに、シャルルがふと言った。
「ひとつ聞きたいことがあるんだが」
なに?
「愛を誓いながら裏切った人間は、ゆるされる資格があると思うか?」
あたしはびっくりした。
だって、シャルルがあたしをじーっと見ていたの。
底が見えそうなぐらいきれいな二つの瞳がまばたきもしないで、じぃぃっと。
触れたら切れてしまそうなぐらいの激しさで、シャルルはあたしの中に真実を探そうとしているように、見据えるようにして、まっすぐに見ていた。
「……あんたはゆるす?」
「そうだな、オレは」
シャルルは小さく笑って、言った。
「ゆるすけど、憎むかもしれない」
その時、あたしは思い出したの。
エリナと一緒にアルディ家の彼を訪れた時、シャルルは、責めるような目であたしを見ていたってことを。
もしかしたら、あの時、シャルルは、あたしが彼を追いかけてきたと思ったのかもしれない。
でも、違ってて、一度は愛を誓いながらもそれを裏切ったくせに、その数日後にのこのこやってきて平気な顔で頼みごとをするあたしに、シャルルは深い失望を感じたのだ。
そうだ、きっとそうにちがいない。
あたしは、身に迫る罪悪感を覚えながら、シャルルを見つめて、言った。
「……ゆるされるか資格があるかどうかは、神様の領分よ。みんな、あーなんであんなことしちゃったんだろうってよく考えたら後悔するんだけど、その時はただ必死なだけだと思うの。
もちろん、裏切る言い訳にはならないわ。必死だったから、誰かを傷つけていいって理由にはならない。
でもね、大事なことは、間違えたと気付いた時に、それを認める勇気だとあたしは思うのよ。認めて、二度と繰り返さないこと」
シャルルは唇を引き結んで、一瞬たりとも目をそらない。
それが、彼の、あたしへの怒りだとあたしには思えたの。
ごめんね、ごめんね。
あんただけを好きになれなくてごめんね。
あたしは、和矢が好き。
どうしても和矢が大好きなの。
だけど、シャルルのことは友人として好きだし、シャルルとの関係を絶ちたくない。
だってシャルルが大切だから。
あんたとはこれからもお互いに思い合える間柄でいたいし、あんたのしあわせを願っているし、ずぅぅっと、いつまでも、永遠に繋がっていたい。
そう言えたらいいけど、それは彼の誇りを傷つけてしまいそうだから、やめた。
その代わり、あたしは、心の底から沸き起こるこの気持ちが彼に伝わるように、一生懸命に真実を込めて彼を見つめたの。
「シャルル、あんたに頼ってばかりのあたしだけど、これから先、もしあんたがピンチになった時には、何をおいてもかならず力になるわ。あの小菅の朝のようにひとりぼっちで戦いに旅立つあんたを、もう二度と指をくわえて見送ったりしないと誓うわ!!」
やがて、シャルルは小さな息をついて、静かに目を閉じて腕を組んだ。
「だったら、君がピエールをゆるしてやればいい。エリナのためにね。それと、三つの約束をよすがに、日本で君の帰りを待っている健気な和矢のためにもね」
あたしはぎょっとした。
和矢がどーしてここで出てくるのよ!?
しかも『シャルルに会わない』『思い出の場所に行かない』『シャルルのことを考えない』という、あの過酷な三つの約束のことをなんであんたが知ってるの?
さては……エリナがしゃべったな!
これじゃあ、あたしって、シャルルを振った人でなし、プラス、最愛の和矢との約束もないがしろにしている、ただのダメダメ女じゃないのっ!?
あれほどカッコよく愛について語ったあたしはもはやなんといっていいのやらわからず、すっかり動揺してしまい、シャルルは黙りこくったままで、そのあと、非常に気まずい雰囲気のまま、車は二時間ほど高速道路を走り続け、やがて前方に海が見えてきた。
あたしたちが目的の養護施設に着いたのは、午後三時を少し回った頃だった。
太陽が西日に変わり始めた時間で、海の表面が西側だけきらきらとオレンジ色に照っていた。
施設は、海に突き出るような形の断崖沿いに建っていた。
全体的に白く二階建ての、思ったよりずっと立派な建物で、シャルルとあたしが車を降りて門を入ると、施設の側面にあるその芝生の奥に、絵を描いている一人の男の姿が目に入った。
海に向かってイーゼルを立てて、背中しか見えないが、白いシャツの肩甲骨あたりで潮風に流れる長髪は、太陽に照らされて金色に輝いている。
もしかして、あれがピエール!?
ああ、やっと見つけた!
と思った途端、施設からスーツ姿の小柄なおばあさんが出てきて、ぺらぺらとまくしたてるようなフランス語で話しかけられた。
う、わからない!
あせるあたしをよそにシャルルはそのおばあさんと二、三言会話を交わし、彼女が目頭を抑えるしぐさをしたのを合図に、シャルルは頷いて、踵を返して芝生にいるピエールへと向かった。
あたしは慌てて彼の後を追って叫んだ。
「ねえ、なにを話したの?!」
シャルルはわずらわしそうにしながらも、足を止めて簡潔に答えてくれた。
「ピエールはここに戻ってきてから、ああやってずっと描いていると。ピエールは昔からそうだったそうだ。ひどく内向的な子供だったピエールは、いつも一人で絵を描いていた。それで、他の子ども達にからかいの対象にされていた。だが五才下のサミュエルだけは常にピエールの味方で、方法は不明だが、いじめを止めさせた。それ以来、ピエールはサミュエルにだけ心を開くようになったと」
え……?
それ、逆じゃないの?
絵ばかり描いていじめられていたのはサミュエルで、それを助けてあげたのが、ピエールでしょ?
あたしが近所の人から聞いた話では、その恩義があるから、ピエールがどんなにろくでなしでもそばに置いておいたんだって、サミュエル本人が言ってたって……。
「サミュエルの指先を調べたといっただろう。死体検案書に記載がなかったから、遺体を調べるに至ったわけだが、彼の指先には、本来あるべきものがなかったよ」
「それは、なに?」
「君の指先、特に爪の間をよく見ろよ」
言われて、あたしは、自分の指先を見た。
それで、ハッとしたの。
昨夜疲れ切ってシャワーも浴びずに寝たあたしの指先には、ピエールの似顔絵を描いた時の鉛筆の汚れが、黒いわずかな筋になって爪と肉の間に残っていたのだ!!
「サミュエルは画家で、それも新作を次々と出していた画家だ。ならば、どんなに清潔に保っても、爪の間にはかならず顔料や炭酸グリセリン、テレピン油など、絵の具の成分が残っているはずなんだ。だが、彼の爪の間には、それらが全くなかった。つまり、彼は絵を描いてはいなかったということになる。
だが、サミュエルは事故の数日前にも完成したばかりの絵を売りに出しているし、死亡後の警察の調べでも、家の中には描きかけの絵と画材がちゃんとあった。以上のことから導きだされる結論はただひとつだ」
それは、つまり!
目を見開くあたしに、シャルルは強くうなずく。
「サミュエルの作品とされていた絵は、すべてピエールが描いたものだってことさ」
あたしはびっくりして叫んだ。
「じゃあ、本当の画家はピエールの方だったの!?」
そんなあたしたちの気配に気づいたのか、イーゼルに向かっていた金髪の男が、ゆっくりと振り返って、その顔をあたしたちに向けたのだった。
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