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Channel: りんごの木の下で
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Hello

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この苦しみから逃れたいと思った自分を、ひどく痛めつけてやることで、魂に刻みつけてやりたい。
一生、愛は僕から離れることはない。
それが幸せなのだと。
運命だという言葉はいらない。だって、運命だというのならば、彼女は、僕のものではないという事実が運命だ。そんな運命はごめんだ。
自分の運命は自分で決める。
彼女の未来は僕のもの。
僕の未来は彼女のもの。
たとえ関わらなくてもいいんだ。手をつなげなくてもいい。話ができなくても、目を合わすことがなくても、耐えてみせる。
僕がすることは、祈り続けること。彼女のために。彼女が幸福に暮らせるように。
それだって十分な関わりだろう?
違うかい?
ああ、そうだ。さよならって言ったさ。それなら、忘れるべきかもしれない。
だけど、忘れるという約束まではしてないよ。
詭弁だと人々は僕を指差して嘲笑するかもしれないけれど、僕のことを知らない連中のために僕は生きているわけじゃないし、そんな奴らは僕の毎日に役立ってはくれないだろう。


胸の小鳥が騒ぐ。
崖の上に立つ僕の頭上で、小鳥たちは美しく鳴く。
オレンジ色の黄昏を、白い鳥たちは、星が瞬くまで舞い続ける。

僕が死んでも小鳥は大空を舞い続けるだろう!
この小鳥はたくましい!
大聖堂のパイプオルガンよりも荘厳で、つのぶえよりもはるか遠くの街まで満たす強い声で、小鳥たちは僕の墓標を弔ってくれるだろう。


幼い頃から生きる意味を問うてきた。
孤独と虚無感の中で、自分の命の意味さえ見失っていた。
見えすぎる目が現実を色褪せさせ、何にも興味を持てなくなっていたのに、僕の意思に関係なく飛び込んできたのは彼女だ。
それなのに、僕を愛していないなんて勝手すぎる。
でも、そうだ。
勝手だから、わがままだから、どんなに僕がすがったって自分を変えない女だから、愛してるんだ。



苦しみの果てに、朝、目が覚めると、ベッドの隣が冷たい。
一度だけ抱き締めた君の温もりは幻の中に吸い込まれてしまって、白んだ自分の手があるだけ。
死の悪魔に囁かれた直後、小鳥のさえずりが耳を洗う。
生きよ。
生きよ。
お前には役割がある。
彼女のために祈れ。祈れ。
と、小鳥はさえずる。
泣けたらどんなにいいだろう。
けれど、泣くすべは学ばなかった。
この世にあるすべての学問は学んだけれど、悲しいときに泣く方法だけは誰も教えてはくれなかった。
孤独は僕の人生に居座ったまま。
切なさと悲しみと、嘔吐するほどの苦しさを感じながらも、僕は、羽のベッドから起き上がることができる。
また退屈な日常が始まることはわかっている。
彼女がいるときのように、すばらしい、素敵な日々は二度とこない。
それでも僕は生きていく。
彼女が幸福でありますようにと今日も祈る。
明日も祈る。
それは自分の愛の確認行為でもある。もし彼女のために祈り続けなければ、僕は孤独の中で、愛を見失い、彼女が友達と認めてくれた自らを、自堕落な行為で汚してしまったにちがいない。
感謝する。
ありがとう、小鳥を置いていってくれて。
毎朝、可愛いさえずりを聞きながら、君も知っている通り、不機嫌に起きているから心配しないで。
元気に過ごすよ。
何十年か後にもしどこかで君に再会したら、中年太りした君を見て、ひやかしてやれるほどしたたかな男になりたいから。






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イメージはシャルルです。

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